血になる黄金

酒が好きだ。焼酎以外ならなんでも飲めるし美味いと感じる舌を持っている。しかし曲がりなりにも若者の肩書きを負う身として、取り分け篤く信望したくなるのはやはりビールである。

まずは色がいい。冷たく冷えて黄金に輝き、きめ細かな泡を乗せている。黄金は素晴らしい。オリンピックでの1位は当然金だ。銀歯より金歯の方が金持ち感があるし、銀に黒より金に黒のが何のデザインとしてもかっこいい。私愛用のハサミも当然刃の部分は金だ。有能そうに見える。見せかけだけでも立派に取り繕わねばやってられない。

話をビールに戻す。ビールの泡は入れ方で質が364°変貌する厄介者なのも愛しい。サーバーの手入れの粗い店によっては発酵し異臭を放ち飲むに耐えない質のものも少なくない。店で生を頼んだらゆで卵みたいな匂いを感じた事はないだろうか。ビールに罪はないが、残念ながらその店はすべき手入れを怠っているに違いない。

だからこそビールが美味い店に当たるとこの上ない喜びを得られる。このぐらい繊細だからこそ美味いものを一層大切にしたいとゆう矜恃が生まれる。

ビールの話になると「どこ派か」はやんわり議題になる。私は元々はアサヒ派のキレ味中毒だったが、少し前からキリン一番搾りの万有さに気付き鞍替え。しかし更に最近宅で飲んだ際、たまたまストックにあったサッポロ黒ラベルの缶を手にしみじみ飲んだ時、その鮮やかなデザイン性に胸を打たれた。黒丸の中に黄金の星である。最高にクールでは?あまりのカッコ良さに手が震えたのはアルコールのせいではないと思いたい。

 

秋刀魚の味という映画を知っているだろうか。巨匠・小津安二郎の名作で1962年の作品である。主人公の初老の男性は、年相応に出世した暁に同じく出世した同僚と再三酒を酌み交わしている。時勢的に当然ジョッキの生中とはいかず瓶ビールだが、存外美味そうに飲む。それが堪らない。また、高倉健主演の幸福の黄色いハンカチ。こちらは1977年。出所したてで久々のシャバの空気を吸った健さんがグラスに注いだビールを感慨深げに数秒見詰めたのち、一息に飲み下す。これも堪らない。美味いビールはもちろん素晴らしいが、美味そうにビールを飲む姿もまた大好物なのが酒飲みのサガだろう。だから酒飲みは酒飲みとつるむのかもしれない。そう思いながら今宵も晩酌に励むのである。

エア猫飼育奇譚

猫を飼う野望を抱いて早幾星霜、すでに5年は経過した。昔からずっと猫との生活を夢見ているが中々実現しない。私は油断するとすぐフラリと部屋を空ける癖がある為、一人暮らしの身空では実際問題難しいのだ。コロナ騒動で自宅で過ごす時間は増えたが、今家によくいるから猫を飼うとゆうのも短絡的だろう。今後一生在宅ワークが出来て放蕩癖も今後一切断つならともかく、今この瞬間がどうでもあまり意味がないのだ。周りの猫好きも似たような境遇で「飼いたい」は何度も聞くが「飼った」という変化へ発展した者は未だ一人としていない。

あとは件の苦肉のシーライクマイホームを、猫の参入で純度100%陸にしてしまうのも、猫を飼う踏ん切りが付かない理由の一つだ。くだらない理由と思われるだろうが、部屋に猫グッズを置いたら最早潮は全く香らないだろう。猫に快適な生活を与えつつ、海を維持出来る気がしないのだ。まあ現時点で大して海を感じるような部屋を構築出来ていやしないのだが。

そんな訳で最近はイマジナリー猫を飼い始めた。狂人と呼ばれても構わない。名前は大体の場合、漱石と付けている。「大体の場合」とは、気分で猫の名前が変わるからだ。時折熊楠とか、神座とか、文太という名前になる。エアなんだから許されるだろう。なお、エア猫を飼う前に実際の猫を友人宅等で愛でさせて貰うと良い。本物に触れる事でガチ猫(エア猫の対義語)がどの様に動き、鳴き、存在を主張してくるかが理解出来る。エア猫最大の欠点は実体がない事だが、長時間ガチ猫を観察した後に自室に戻る事で角膜に焼き付けたガチ猫を投影出来る。影送りの要領と言えば分かりやすいだろう。

エア猫の飼い方は至ってシンプルだ。猫がいそうな空間を撫でる。以上だ。なんせエアなもんだから餌もトイレも玩具もいらない。ただ気配を感じればエア猫は既に「いる」のだ。そう、貴方の隣に、後ろに、肩に…。

 

ここまで書いてみたが、文章に起こすとまるきり狂人である。虚空を愛しげに撫でる成人がこの世界の何処かにいるなんて、全く世の中は色んな人間がいるもんだ。それが自分であるのもまた感慨深い。なぁ、漱石

 

 

ラブホの風呂でゆるキャンを観た

今まで両手で足りない回数の誕生日を迎えてきた。誕生日なら何回も経験してるし、なんならプロと言ってもいい。伊達に歳を重ねてはいない。

そんな数多の誕生日の思い出の中で最も色濃く記憶に刻み込まれているのは2018年のものだ。2年前、私はラブホテルで友人4名と誕生日を過ごした。

 

私の通っていた大学は小規模で、同専攻の女子は私含め5人しかいなかった。元は6人だったが1年の終わりからあまり学校に来なくなりそのままフェードアウトしていった。なので以来、女子5人寄りあって助け合ったり足を引っ張りあったり、紆余曲折を経て4年間生きた。そんなある日、私ともう1人の子が6月生まれ且つ誕生日がたった2日違いとゆう事で、他の3人が私達を2人を纏めて祝ってくれる運びとなった。

今時はラブホ女子会とゆうプランがあるほど、ラブホはエンタメ要素を備えている。正直私もほとんど娯楽施設と認識している。映画見放題、カラオケ有り、広い風呂、広いベッドにWiFiや充電器まである。楽しい。昨年までは飲み歩いて終電を失ったらとにかくラブホを探したもんだ。それまではカラオケとか漫喫とか、その時思い付く「夜を明かせそうな場所」で身を潜めていたが、ラブホの素晴らしさに気付いてからはラブホ一択だ。新宿にTSUTAYAが経営する泊まれる本屋があり、そこも大層気に入っていたのでラブホと二大勢力として我々友人間で覇権争いをしていたが、こちらは昨年11月に閉店してしまった。ラブホ一強時代の到来である。

 

話を戻す。とにかくラブホは素晴らしい。しかも5人で割り勘すれば安く広い部屋を取れる。とゆうわけで会場はラブホになった。

授業が終わり、たしか夕飯に焼肉を引っ掛けたと記憶してる。腹を満たしいざ目的地へとゆう時に1人の子から耳打ちされた。「ムラじゃない方の6月生まれの子にサプライズをしたい、すぐそこのコインロッカーにプレゼントが入ってるからその子を誘導する係になって欲しい」との事だった。私も誕生日なのにサプライズ係になるのかと思いながらも承諾し、その子をコインロッカーへ連れてった。ロッカーを開けたらプレゼントではなく便箋が入っていた。

 

「ハッピーバースデー!誕生日を迎える御2人をお祝いすべく、私達3人は先に会場へ行って準備を致します。御2人はお酒やお菓子を買ってから下記のラブホテルにお越しください」

とあった。私もサプライズを仕掛けられていたのだ。気付いたら他の3人は消えていた。

 

埼玉のちょっとハズレまでいけばそこは最高に何にもない場所になる。私達の目指すホテルはその何にもない空間に堂々鎮座していた。ラブホテルも堂々してれば立派なもんである。大量の荷物を抱えてタクシーに乗り込んだ我々はやはり堂々とした面持ちで目指すべき建物の住所を伝えた。恐れるものは何も無い。ここにおわす2人はお誕生日様だ。

 

入ってよしの連絡と共に部屋のドアノブを捻ると、広々としたベッドには大量の風船と私達2人の誕生日プレゼントの箱、センターにはケーキが置かれていた。クラッカーが鳴らされた気もするが忘れた。とにかくもてなされた印象がある。こんな盛大に祝われたのは初めてだった。プラスチックのグラスに注いだぬるいシャンパンで乾杯し、焼き肉後の夜10時に食うにはヘビーなバースデーケーキを頂いた。美味かった。

 

ラブホには脱衣場がない場合がほとんどだ。ベッドの置いてある部屋と風呂がそのまま繋がっている。一応お情けで存在するなけなしのついたて(扇情的な曇りガラスである)の向こうでカラオケを利用してる友達が前前前世を熱唱してるのを聴きながら服を脱ぎ、風呂に入った。ラブホといったら泡風呂である。更に備え付けられたテレビ。このテレビはアダルトチャンネルも映るが、パッとつけた画面に映っていたのはゆるキャンだった。私は丸々1話分を風呂で観た。クリスマスキャンプ会で、すき焼きを食べるシーンが流れた。無性にすき焼きが食べたくなる。すっかり泡がヘタレた湯船を上がり、「すき焼き好きな人」と呼び掛けた。友達が胸に風船を詰め巨乳ごっこをしていた。酔っ払っていて虚ろげだが、全員が手を挙げた。

そのうち我が家を会場に、すき焼き会をしたいと思っていたが、気付いたら卒業してしまった。いつか開催したいと思うが、このコロナ禍の御時世ではしばらくは難しそうである。いつか5人で集まれる日がくるまでとりあえず私は部屋を海にしたい。

部屋をシーライクにしたい

コロナ禍の昨今、暇を持て余している。

暇過ぎてネトフリに入り、huluに入り、ネトフリと間違えて加入したU-NEXTもそのまま継続している。当たり前のようにアマプラも利用している。暇だったのでそのままブログを開設した。ブログを書けるのは人間の特権だと思ったからだ。犬猫には出来まい。私は古い友人から「動物に例えるとイグアナ」と度々言われていたが、果たしてイグアナが突発的にはてなブログを開設し記事を投稿出来るだろうか?イグアナの知能レベルは知らないが、多分出来ない。ボノボくらいでなきゃ私と同じ土俵には立てないだろう。私は人間だからビールの缶を開けれるし、冷房のスイッチを押せる。明らかに過剰な数の映像配信サービスへの加入も次々と出来る。

高度な知能を持つ私の暇つぶしは終わらない。この夏は旅行もしてないし外飲みも行ってない。昨年までの私なら考えられない生活だ。発散したい。少しでも楽しく日常を彩りたい。イライラや不満を溜め込むのではなく、ええ感じに幸せな感じになって豊かな生活を送りたい。それが大人の生き物だ。大人の余裕あるシティ生活。ここは一つ、モデルルームみたいな部屋づくりをしてみようと思った。

そうゆう訳でまずはコンセプトを決めた。私は水や海が好きだ。水の塊を見ると堪らない気持ちになる。ポケモンになるなら断然水か氷タイプになりたい。背中の大砲から水を噴射したい。よし海っぽい部屋に住むぞ。

まずはインテリアだ。丁度昔USJに行った際に衝動買いしたJAWSの鮫フィギュアがある。迷わず棚に飾った。

次にカーテンレースを魚柄にした。可愛い。カーテンも買い替えた。部屋中のカーテンを全て買い替えたから請求額がバグか詐欺を疑うくらい莫大になった。きちんとした店のカーテンは高い。実家暮らしの方はよく知っておいて欲しい。可愛くて実用的なカーテンは高い。給付金がそのままカーテンになった。

鮫フィギュアが置いてあって、魚柄カーテンを吊っていたらだいぶ海になっただろうと思ったが全然そんな感じがしない。潮気が全くない。風が吹かないし波がさざめかない。タイタニックは沈まないし裏切り者を縛って乗せた車も飛び込まない。陸としか思えない。大地讃頌が聞こえる。

魚責めが足りないのでは?と更に魚ステッカーを壁に貼りまくった。そこら中の壁に魚が散布された。しかし一向に陸だ。何故?

まだ魚が足りないのかと悩み始めたので追い魚の用意をしつつ、ひとまず海っぽい部屋の作り方を検索してみた。

「ソファは存在感ある家具なので、青いソファを置くと海っぽくなる」と書いてあった。うちのソファは6月にピンクのものに買い替えたばかりだった。こうして私の夏は終わった。

ベランダにビーチパラソルを広げれば海になるだろうか。しかし我が家のベランダからは青々生い茂る木々が一望できる。言い逃れ出来ない陸が広がっていた。酒飲んで寝よう。