ラブホの風呂でゆるキャンを観た

今まで両手で足りない回数の誕生日を迎えてきた。誕生日なら何回も経験してるし、なんならプロと言ってもいい。伊達に歳を重ねてはいない。

そんな数多の誕生日の思い出の中で最も色濃く記憶に刻み込まれているのは2018年のものだ。2年前、私はラブホテルで友人4名と誕生日を過ごした。

 

私の通っていた大学は小規模で、同専攻の女子は私含め5人しかいなかった。元は6人だったが1年の終わりからあまり学校に来なくなりそのままフェードアウトしていった。なので以来、女子5人寄りあって助け合ったり足を引っ張りあったり、紆余曲折を経て4年間生きた。そんなある日、私ともう1人の子が6月生まれ且つ誕生日がたった2日違いとゆう事で、他の3人が私達を2人を纏めて祝ってくれる運びとなった。

今時はラブホ女子会とゆうプランがあるほど、ラブホはエンタメ要素を備えている。正直私もほとんど娯楽施設と認識している。映画見放題、カラオケ有り、広い風呂、広いベッドにWiFiや充電器まである。楽しい。昨年までは飲み歩いて終電を失ったらとにかくラブホを探したもんだ。それまではカラオケとか漫喫とか、その時思い付く「夜を明かせそうな場所」で身を潜めていたが、ラブホの素晴らしさに気付いてからはラブホ一択だ。新宿にTSUTAYAが経営する泊まれる本屋があり、そこも大層気に入っていたのでラブホと二大勢力として我々友人間で覇権争いをしていたが、こちらは昨年11月に閉店してしまった。ラブホ一強時代の到来である。

 

話を戻す。とにかくラブホは素晴らしい。しかも5人で割り勘すれば安く広い部屋を取れる。とゆうわけで会場はラブホになった。

授業が終わり、たしか夕飯に焼肉を引っ掛けたと記憶してる。腹を満たしいざ目的地へとゆう時に1人の子から耳打ちされた。「ムラじゃない方の6月生まれの子にサプライズをしたい、すぐそこのコインロッカーにプレゼントが入ってるからその子を誘導する係になって欲しい」との事だった。私も誕生日なのにサプライズ係になるのかと思いながらも承諾し、その子をコインロッカーへ連れてった。ロッカーを開けたらプレゼントではなく便箋が入っていた。

 

「ハッピーバースデー!誕生日を迎える御2人をお祝いすべく、私達3人は先に会場へ行って準備を致します。御2人はお酒やお菓子を買ってから下記のラブホテルにお越しください」

とあった。私もサプライズを仕掛けられていたのだ。気付いたら他の3人は消えていた。

 

埼玉のちょっとハズレまでいけばそこは最高に何にもない場所になる。私達の目指すホテルはその何にもない空間に堂々鎮座していた。ラブホテルも堂々してれば立派なもんである。大量の荷物を抱えてタクシーに乗り込んだ我々はやはり堂々とした面持ちで目指すべき建物の住所を伝えた。恐れるものは何も無い。ここにおわす2人はお誕生日様だ。

 

入ってよしの連絡と共に部屋のドアノブを捻ると、広々としたベッドには大量の風船と私達2人の誕生日プレゼントの箱、センターにはケーキが置かれていた。クラッカーが鳴らされた気もするが忘れた。とにかくもてなされた印象がある。こんな盛大に祝われたのは初めてだった。プラスチックのグラスに注いだぬるいシャンパンで乾杯し、焼き肉後の夜10時に食うにはヘビーなバースデーケーキを頂いた。美味かった。

 

ラブホには脱衣場がない場合がほとんどだ。ベッドの置いてある部屋と風呂がそのまま繋がっている。一応お情けで存在するなけなしのついたて(扇情的な曇りガラスである)の向こうでカラオケを利用してる友達が前前前世を熱唱してるのを聴きながら服を脱ぎ、風呂に入った。ラブホといったら泡風呂である。更に備え付けられたテレビ。このテレビはアダルトチャンネルも映るが、パッとつけた画面に映っていたのはゆるキャンだった。私は丸々1話分を風呂で観た。クリスマスキャンプ会で、すき焼きを食べるシーンが流れた。無性にすき焼きが食べたくなる。すっかり泡がヘタレた湯船を上がり、「すき焼き好きな人」と呼び掛けた。友達が胸に風船を詰め巨乳ごっこをしていた。酔っ払っていて虚ろげだが、全員が手を挙げた。

そのうち我が家を会場に、すき焼き会をしたいと思っていたが、気付いたら卒業してしまった。いつか開催したいと思うが、このコロナ禍の御時世ではしばらくは難しそうである。いつか5人で集まれる日がくるまでとりあえず私は部屋を海にしたい。